名古屋地方裁判所 平成4年(レ)7号 判決 1992年8月03日
控訴人
安藤重忠
被控訴人
名鉄交通株式会社
ほか一名
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、連帯して控訴人に対し、金六八万三七〇〇円及びこれに対する昭和六二年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人名鉄交通株式会社の控訴人に対する(反訴)請求を棄却する。
4 訴訟費用は、第一、二審を痛じて被控訴人らの負担とする。
5 第2、4項につき、仮執行宣言
二 被控訴人ら
主文同旨
第二事案の概要
本件は、信号による交通整理の行われていた交差点における、控訴人と被控訴人清水速水の間で発生した交通事故によつて生じた物的損害の賠償を求めて、控訴人が被控訴人清水とその使用者である被控訴人名鉄交通に対して前示第一、一2記載の請求をした本訴と被控訴人名鉄交通が控訴人に対して金四四万二八四〇円及びこれに対する昭和六二年七月二三日から支払済みまでの年五分の割合による遅延損害金の支払請求をした反訴に対してなされた判決に対する控訴事件である。
一 争いのない事実
1 (本件事故の発生及び責任)
(一) 控訴人及び被控訴人清水は、左記の交通事故に遭遇した。
日時 昭和六二年七月二三日午前二時四〇分ころ
場所 名古屋市千種区今池五―三一―一一先の交通整理の行われている交差点
事故車両 控訴人運転の普通乗用自動車(名古屋五五ら一八六四)
被控訴人清水運転・同名鉄交通所有の普通乗用自動車(名古屋五五か一〇五〇)
態様 今池三丁目方向から丸山町方向へ東進していた控訴人車の右側前部と青柳町方向から仲田方向に北進していた被控訴人車両の左前部が衝突した。
信号機 控訴人車の対面信号は赤色点滅表示
被控訴人車の対面信号は黄色点滅表示
(二) 被控訴人清水は、同名鉄交通に雇用されている運転手であり、本件事故はその業務中に発生したものである。
2 (損害)
本件事故による控訴人車の修理代金は金六八万三七〇〇円であり、被控訴人車の修理代金は金四四万二八四〇円である。
二 争点
本件事故の具体的状況並びにそれに基づく控訴人と被控訴人清水との過失の有無及び双方に過失がある場合の過失割合が本件の争点である。
第三争点に対する判断
(以下、摘示する書証は全て原本の存在とその成立に争いがない。)
一 控訴人は、控訴人車を運転して本件交差点に差しかかつた際の対面信号が赤色点滅表示であることを認識し、一時停止線手前での一時停止はしなかつたものの、本件交差点内の左右の見通しのきくぎりぎりの場所で一時停止し、安全確認していた最中に被控訴人車が衝突してきて本件事故が発生したもので、右衝突の原因は、被控訴人車の前方不注視又は居眠り運転であるから控訴人は無過失であると主張する。
二 そこで、検討すると、甲三から甲六、甲九、甲一〇、原審における検証並びに原審における控訴人本人及び被控訴人清水速水本人によれば、以下の事実を認めることができる。
1 本件交差点は、北方道路、南方当路の車道幅員がいずれも九メートルの道路と、東方道路の車道幅員が七・三メートル、西方道路の車道幅員が四・三メートルの道路とが交差する交差点である。
2 本件交差点の南西角に高さ一・五メートルのブロツク塀があるため、交差点の西方から東進する車両は、交差点手前に設けられている一時停止線の手前からは交差点に南方から進入してくる車両の有無及び動静を確認することはできないけれども、本件交差点の西側進入口付近までさらに接近すれば、交差点の南方(右方向)を見通すことができ、南方から本件交差点に向け北進してくる車両の有無及び動静を容易かつ確実に、しかも安全に確認することが可能である(以下右位置を「見通し可能位置」という。)。
3 本件事故当時、今池三丁目方向から東進して本件交差点に入つた控訴人は、対面信号が赤色点滅表示であることを確認していたにもかかわらず、わずかに減速したのみで、前記一時停止線及び見通し可能位置で停止することなく、本件交差点内に進入し、南方から北進してくる車両の走行線(北行車線)上にまで控訴人車を突出させた。
4 他方、被控訴人清水は、自己の対面信号が黄色点滅表示だつたことは認識していたが、交差道路(東西道路)の信号が赤色点滅信号であり、左右から急に本件交差点に進入してくる車両はないものと軽信して、左右の安全に十分な配慮をすることなく、従前どおり時速約四〇キロメートルで被控訴人車を本件交差点に進入させた。
三1 そこで判断するに、控訴人は、対面する信号が赤色点滅信号であつたのであるから、一時停止線で停止することはもとより、再度発進して交差点に進入するに当たつては交差道路上の交通の安全を確認し接近してくる車両との衝突の危険を回避するためその進行妨害を避けるなど所要の措置を採るべき注意義務を負うものと解すべきである。したがつて、本件にあつては、前記一時停止線の位置のみならず、見通し可能位置において停止し、南北道路の交通の安全を確認すべきものであつたところ、前記認定の事実によれば、控訴人は、これらをいずれも怠り、わずかに減速したにとどまつたというものであり、控訴人の過失は明らかといわねばならない。
もっとも、被控訴人清水においても、黄色点滅信号を認識していながら、特段徐行することなく、東西道路の交通の安全確認を怠つたというものであり、同被控訴人にも過失を認めることができる。
そして前記認定の本件交差点の形状、見通し、信号等の諸事実に照らすと、控訴人と被控訴人清水の過失の割合は、控訴人が八割、被控訴人清水が二割と評価するのが相当である。
2 そこで右認定の過失割合に基づいて本件各損害につき計算すると、被控訴人らが控訴人に賠償すべき損害額は金一三万六七四〇円であり、控訴人が被控訴人名鉄交通に賠償すべき損害額は金三五万四二七二円であることになる。
四 以上によれば、控訴人の本訴請求、被控訴人名鉄交通の反訴請求は、原判決が認容した限度でいずれも理由がある。
よつて原判決は相当であり、本件控訴は理由がないことになるから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 大橋英夫 北澤章功 野村朗)